『この世にたやすい仕事はない』 / 津村記久子
★ × 86
内容(「BOOK」データベースより)
「コラーゲンの抽出を見守るような仕事はありますか?」燃え尽き症候群のようになって前職を辞めた30代半ばの女性が、職業安定所でそんなふざけた条件を相談員に出すと、ある、という。そして、どんな仕事にも外からははかりしれない、ちょっと不思議な未知の世界があって―1年で、5つの異なる仕事を、まるで惑星を旅するように巡っていく連作小説。
津村さん久々新刊!!ど直球の装丁とタイトル!!
サインもしっかりもらってきました。
本作でちょうどデビュー10周年だそうな…
西加奈子さんといい、昔から読んでいた人が気づけば40前のお姉さまに…ってことは当然自分も年喰ったわけで。
本書を読んでいろいろ思うことあったので、レビュープラス駄文も書きたいと思います。
本書はタイトル通り仕事の話。
主人公は契約社員として次々と別の仕事に移っていきますが、「ある人物を見張ること」「バスのアナウンスの内容を考えること」「おかきの袋の裏側に書く文章を考えること」…など、一風変わった職種ばかり。
津村さん曰く「自分がやってみたい仕事」だそうな。
主人公は、人付き合いの薄さや変化の乏しさを重視してハローワークで希望を伝え、その結果上記のような職に就く。
ただし先程書いた通り、やはり最終的には辞めて次の仕事へと移っていく。
この「辞めてしまう理由」、ここに本書の、というか津村さんの強調したい思いが詰まっているような気がしました。
どういうことかというと、主人公は何も燃え尽きバーンアウトしたわけでも、乏しすぎる変化に精神を病んだわけでもない。
寧ろそれぞれの仕事を楽しみ、職場の人とご飯に行ったりもしているし、「上手くやっている」ようにしか見えない。
なんだかんだ言いながら、成果もきっちり上げている。
けれど各編の終盤には、自分の成果を利用したい人間の欲みたいなものにぶつかり、やっかみしがらみに飲み込まれた挙句に辞める決意をしてしまう。
本人には決して問題があるわけではなく、かと言って誰が悪いかと言われても特定できない、要は誰も悪くないことに対峙した時に耐えられなくなってしまう。
これ、長期雇用で何とかやってる人がエラいみたいな風潮に対するアンチテーゼにも感じて、正に津村記久子ここに極まり!でした。
最後は一応のオチもあり、仕事帰りなんかに読むと共感も元気も得られる内容、満足度高しです!
(こっから駄文)
津村さんを初めて読んだのが大学3年の時なので、もう8年経ちます。
研究室のプロジェクターで「大画面で格闘技観れる!」とかムハムハ言ってたケツの青いあの頃の自分と、
曲がりなりにも社会人4年目となりそれなりに忙しく大変な今の自分と、
肩書き上は偉そうになった気がしますが、精神面では未だ大画面で格闘技観たいし、行ったことのないカフェで普段そんなもん読んでねえだろオメェみたいなオシャレな装丁の本を見せつけるように読みたいし、本質は何も変わっていないなぁと思う時があります。
ただ、個人的に過去と現在の差異の無さを感じる時、それが本を読んでる時なんです。
8年前に『ワーカーズダイジェスト』に感銘を受けた自分は別に今と大きく違ってるわけでもなく、恐らく今初めてそれを読んだとしても同じように感じるだろうし、
瀬尾まいこさんや横山秀夫さんを久しぶりに読んだときは「ああー大学2回の頃もこんな感じで感動してたなぁ!」と思い返して、時の流れの速さと己の成長の無さを良い意味でも悪い意味でも肌で感じます。
長年一つのことを続けている人は、同じことをしている過去の自分と対比させやすいので、こういったことを感じるのかもしれませんね。
そういう意味では、本を読んでいて本当に良かったなぁと思います。
津村さんもトークショーで「ウダウダ考える暇があれば本を読め」と言っていたし…このまま、飽きるまで本を読み続けようと決意したのでありました(終わり