『水車小屋のネネ』 / 津村記久子
超久々の津村記久子さん。最近読んでる本がどれもダラダラと並行読みしてもうてるけど、これは一気に読めた!津村さんの作品は最近全然追えてなかったけど今こんな感じなのか、、昔のワーカーズ小説のイメージとは一線を画す、人間の半生をじっくり丁寧に追った小説。
舞台は1981年、1991年、2001年、2011年、そしてエピローグは2021年と、実に40年もの月日を、数人の登場人物に焦点を当てて追ってる。最初に出てくる姉妹の理佐と律は、シングルマザーの母親と再婚相手の父親に家庭内暴力に近い仕打ちを受け、理佐は律を連れて独立し、山あいのそば屋に就職する、という設定。
そこから何人かの主要人物が出てくるが、彼らの中核を成す重要な要素が、そば屋で飼われている鳥のネネ。理佐と律に限らず、聡やケンジといった主要人物は、いずれも家庭環境に問題があって居場所を失い、失った者同士で良心を分け合って生きていってるが、
その中でネネは常に居場所があってそこに存在し、皆の愛を受けながら飼われている。津村作品はいつもこんな風にどこか不完全な人々が出てくる印象があるけど、今回はネネという、どこにも行かずただそこにいる存在がドシッと構えてることが、彼らの物悲しさを埋めるような作りになってた。
その時聡が感じたのは、他人の来し方を耳にすることの気詰まりさではなく、本当のことだけを話してくれるとわかっている人と接するときの不思議な気楽さだった。聡はあまりにも、自分の弱さを正当化するためだとか、誰かに罪悪感を抱かせるために口を開く人々の言葉を真に受けながら生きてきた。その人たちの保身に、どこまでも翻弄されながら生きてきた。
あとやっぱ津村さんいいなと感じたのが最後の終わり方。
俗にまみれた俺はなんとなく終盤に差し掛かったあたりから、「あぁ、最後にネネは死んでしまうのだろうか、、」と予想してしまってた。絶対的存在のネネを失った時、拠り所としていた彼らはどう生きていくのか、みたいな安易な結末を描いてたけど、そこは津村さん、誰もいなくなることなく、ただそこに日常が続いていくという終わり方になっていてとても良かった。
ガツっと小説に浸かった1週間という感じ。良かったす!