『お父さん大好き』 / 山崎ナオコーラ
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恋人ではないけれどセックスはする会社の先輩と、セックスはしないけれどつきあっている30歳年上の上司との間で揺れる20代女性を描いた「手」(芥川賞候補作)。NHKラジオ文芸館で異例の話題となった、血のつながらない娘と暮らす44歳のサラリーマンが主人公の、「お父さん大好き」など4作を収録した新鋭の中短篇集。
内容(「BOOK」データベースより)
先週から、電車である海外小説を読んでいるのですが、これがかなりの難読書で、短編集であるもののなかなか内容が理解できず、前後に行ったり来たり。
ちょっと疲れたので一呼吸、『人のセックスを笑うな』から引き続きのナオコーラさんに手を出しました。
(そういえば『人のセックス~』を初めて読んだときも、衝撃的すぎてそのあとすぐ『浮世でランチ』を読んだのを思い出しました)
本作は「手」「笑うお姫さま」「わけもなく走りたくなる」「お父さん大好き」から成る短編集。
とはいっても作品ごとの分量にはかなり差があり、「わけもなく~」はまさかの5頁で終わります。
ただ、どれを取っても本当に秀逸!!短編女王!!
全編に渡り、「おじさんと若い娘」という、ナオコーラさん以外の作家さんだとちょっとどうかな…と敬遠してしまいそうなテーマです。
「手」では職場の2つ上の男性、それに30歳以上離れた男性の二人と男女の関係を持つ女性の話。
女性視点から、考え方がシンプルな造りの男性をそれでも愛してくれてる、という、男の私からすれば「してやられちゃってるなー」と耳が痛い内容。
胸を触りたいとか、彼女がいるけどやりたいとか、そういった動物的感情を分かった上で、手のひらの上でコロコロ転がされている感じ。
けれど決して嫌みでなく上下関係もなく、主人公の女性は彼女なりに傷ついているし、でも感傷的でもない、という絶妙なバランスが見事に表現されています。
ここまで納得させられると、もしかしてナオコーラさん自身もおじさんフェチなんじゃないだろうかと錯覚するほどです笑
「笑うお姫さま」「わけもなく走りたくなる」は、いずれも非常に短いSFでありながら、思い出してニヤニヤするほどインパクトのある作品。
特に「笑うお姫さま」の最後の4頁は衝撃的。
もうサイコー!! 5分で読めるので、立ち読みでもいいから是非読んでほしいです。
そして表題作「お父さん大好き」がめちゃめちゃ良かった。
作りとしては津村記久子さんの 『ウエストウイング』のような、淡々と日常を切り取るような構成。
けれどここでナオコーラさんオンリーな手法として、短い文章の前後に1行分の余白を設け、その文章を強調するという効果の絶大さを感じました。
例えば
自分のレゾン・デートルのために他人が必要なのだろうか。いや、違う。人間は、交情し合いたいだけなのだ。
という文章。
この文章の手前まで、主人公がいろんな人と触れ合う描写が数多く出てきますが、それぞれのエピソードになんの意味も持たせることなく、小銭を拾ってもらったりするだけのシーンがあるだけ。
けれどそのあとに前述の強調文が現れた途端、それまでのエピソードが急に熱を帯びるというマジック!これは痺れる。
日常に疲れた主人公が、それでも些細な出来事に出くわしたときにフッと気を抜ける瞬間があって、それがちゃんと表現されている。
そして最後には「生きているだけですごいことだ。」という強いメッセージがクドい程出てきて、それまでのぬるま湯が一気に沸騰したかのように感じたまま読了します。
西加奈子さんの『ふくわらい』にも似た、急加速して終わる爽快なラスト。
かなり満足度高し!!!