川上未映子さん『夏物語』読了。
『乳と卵』の登場人物たちが出てるということを、娘の緑子が心情を吐露する日記を書いてるという描写を読んでるときにようやく気づいた。ブログを振り返ると2012年2月に『乳と卵』を読んでたみたいやけど、凡そ10年前に読んだ時の記憶がフラッシュバックしていい経験やった。卵を頭にぶつけるシーンは完全に覚えてた。
けど第一部がほぼ『乳と卵』のリブートで、えっじゃあ第二部なに書かれてんの?と思ったら10年後の夏子の物語。独身であり、かつて好きな男性と性行為できなかったトラウマを抱えており、けどどういった感情かわからないまま「自分の子どもに会いたい」という気持ちが芽生えてることに気づき始めて、AID(非配偶者間人工授精)で子を授かることの是非を考えていくという小説。
まずこのAID、世間の人は知ってたんやろか。少なくとも俺は日本でこういったメソッドがあって、これで産まれてきてる人がたくさんいるということを一切知らんかった(知らなすぎて、最初川上未映子のフィクションや思てた)。赤の他人から精子を受け取り、シリンダーで自らの体内に注入して受精させるという手法。「AIDしてまでなぜ子を授かるのか」というタブー的なところに切り込んでる意欲的な作品になってるのが第二部。
朝井リョウさん『正欲』同様、AIDに肯定•否定それぞれの主張を持った登場人物が出てきて、皆に納得させられながら「じゃあ俺はどう思う?」ということを照らし合わせよと問われ続ける感じ。俺個人は遊佐という女性が、ホームパーティで「産むべきだ」とただひたすらに主張連打するシーンに最もやられた。あと元バイト先の紺野さんが放った「ま○こつき労働力」というパワーワードも。川上未映子さんの文章のすごいのは冗長にも思える台詞の羅列感で、言いたいことを誰も言ったことのない新しい言い回しでズバッと言うというよりは、言葉にならない感情の表し方を、言葉の連打で探り続けてるみたいな、その状態を読ませることで結果的に言いたいことを伝えてくる感じ、そのメソッド。本作も遊佐や紺野さんといったパワー系女性や、恩田という最悪の精子提供者など、玉石混合出てくるが皆のその気迫に毎回やられた。
あとは表現力もやっぱすごい。貧困で、幼稚園でお金がなくて葡萄狩りにいけなかった夏子に、姉の巻子が家の洗濯物を吊るして擬似葡萄狩りをさせたシーンとか、読んでてずーっと喉と心臓の交点あたりが締め付けられるように痛かった。