『ホームシック: 生活(2〜3人分)』 / ECD, 植本一子
★ × 94
内容(「BOOK」データベースより)
契約打ち切り、無収入、アル中、閉鎖病棟入院。臨界点ギリギリから生還した47歳のラッパー・ECDが、24歳年下の恋人との結婚、妊娠、出産を通して見つめた、「愛」と「生活」のドキュメント。
『家族最後の日 - bookworm's digest』から間髪入れず購入。
ほぼECDさんの執筆ですが、何なんだこの夫婦、、マジで文章魅力的すぎる、、
エッセイ1話読むごとに喉の奥が締まるようなエモさを持った素晴らしい作品でした。
もともと入手困難なハードカバーが文庫化されたものなので、時系列では『働けECD わたしの育児混沌記 - bookworm's digest』より更に前、ECDと植本さんが結婚し、1人目のくらしちゃんが産まれたあたりのエッセイです。
私は読んだ順番上、エッセイ3冊分の「植本さんから見たECD」を十分にインプットしたあと、ECDさん本人の感情などを本作で初めて知ったのですが、
もう、前者と後者で差、無さすぎ。
つまり、植本さんが著書で描いたECDそのものが、本作でそっくりそのまま描かれていました。まずそこに驚き。
あとがきの窪美澄さんも少し触れていますが、1つの物語を多面的に見るということ、お二人の場合ある日のECDを、植本さんとECD各々から描くということ、
それをするとフツーは両者の気持ちに齟齬があって、それ故に物語に深みが出ると思うのですが、
本作を読んで、ECDはどちらが描いてもECDだし、逆に植本さんもどちらが描いても植本さんそのものであることが分かりました。
ECDはいつだって感情の起伏が緩やかだし、
植本さんはいつだって何かにイライラして夢中になってる。
これは互いが理解をしているからなのか、はたまたお二人が文章上手すぎるからか分かりませんが、いずれにしろこの二人にしかできない芸当で感動しました。
あと核であるECDの文章、これが心に刺さりまくりでした。
エッセイ故に内容うんぬんよりも流れる空気感の議論なのでレビューしにくいのでそのまま引用しますが、例えば『一日』というエッセイにはこんな文章が出てきます。
「もう起きたのー」
そう言いながらあぐらの上にくらしを乗せてミルクを飲ませる。飲み終えた後十分間は胃の中でミルクが固まるまで体を縦にして抱いてやらなければならない。その時間を利用してくらしを抱いたままPCを開けてメール等をチェックする。
風呂に入ったいちこから「いいよー」と声がかかると僕はくらしの服を脱がせて風呂場へ連れて行く。風呂場の床に座らせたくらしの体を僕が支えていちこがくらしの体を洗う。
風呂から上がったいちこと昼間親父が持ってきてくれたメロンを食べる。くらしにもスプーンですくった果汁を飲ませてあげる。もう十一時半を回っていた。
ホント、何気ない所作・心情を淡々と描いているだけ。
けどこういう描写を読んでいる最中、そして特に読んだ後!最初書いたように一々喉の奥が締まるような感覚を味わうのは、もう先が長くないECDの今を知っているというのももちろんあるでしょうが、
それ以上に描写があまりにも普遍的すぎて、読んでいる最中はまるで己が情景に溶け込んだようになるし、読み終わった後は自分の生活に置き換えるようになるからだろうなと思います。
もちろんECDはラッパー、植本さんは写真家で私とは異なる境遇ですが、その違いを超えてECDさんの文章は「こういうもんだよね人生って」と語りかけてくるようでした。
エッセイって好きな作家の日常を知れて嬉しいといった読み方が強いのかと思ってましたが、本作のように度々自分に置き換えるような読み方もあるのですね。
今更ながら、日常を発信するという素晴らしさに感動しました、、
月末には植本さんの新刊が待ってますし、ECDもたくさんの著書があるようなので、またまだ読もうと思います。
2017年下期、この夫婦に完全にやられました!