『夜を乗り越える』 / 又吉直樹
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内容(「BOOK」データベースより)
芸人で、芥川賞作家の又吉直樹が、少年期からこれまで読んできた数々の小説を通して、「なぜ本を読むのか」「文学の何がおもしろいのか」「人間とは何か」を考える。また、大ベストセラーとなった芥川賞受賞作『火花』の創作秘話を初公開するとともに、自らの著作についてそれぞれの想いを明かしていく。「負のキャラクター」を演じ続けていた少年が、文学に出会い、助けられ、いかに様々な夜を乗り越え生きてきたかを顧みる、著者初の新書。
小説家『火花 - bookworm's digest』『劇場 - bookworm's digest 』
エッセイスト『東京百景 - bookworm's digest』
の又吉さんを知り、本作は初の新書。
とは言え読んだ感じはほぼほぼエッセイ。そして、テレビや雑誌などで又吉さんが語る本への熱とかを知ってる人であれば特に新しい発見もない、いつもの又吉さんそのものな内容ですが、
何度同じようなことを言われてもやっぱりサイコー!「なぜ本を読むのか」、その問いに真摯に向き合ってる姿を見て、改めて本の素晴らしさを確認できた作品でした。
本書は要所要所で又吉さんのレビュー(中村文則さんや西加奈子さんが出てきて個人的にはそれも楽しめました)を挟みながらも、基本的には又吉さんが本に救われたということ、そしてだからみんなにももっと本を読んでほしいということ、そこに繰り返し言及しています。
又吉さんは芸人なので自分の体験なんかを面白く世に伝えるのが当たり前ですが、本書は新書ということもあり、そこをボカさずドストレートに表現しているのがとても良かったです。
変な人間に生まれてきてしまった。もうどう生きていったらいいのかわかりませんでした。
でも本に出会い、近代文学に出会い、自分と同じ悩みを持つ人間がいることを知りました。それは本当に大きなことでした。
今の時代ネットがあるので、上のようなことに気づかされる媒体は別に何でもいいと思いますし、私も格安SIMに変えてから電車でお笑い見たりMV観たりして本を読む時間は減りつつありますが、
過去に又吉さんのように、私もまた自分の悩みを本の中に見つけたり、本の中から答えを見出したりした人間なので、こうやって又吉さんにまた本を読む喜びを説かれると、毎日毎日本をアクティブに読み続けていたあの衝動(いとうせいこう風に「読書の初期衝動」)が蘇って、ちょっと泣きそうになりました笑
あと又吉さんいいなぁていつも思うのが、基本的にすべての本を愛しているから、自分が楽しめなかった読者は本が悪いんじゃなく自分が悪いんだって考えるところ。
『火花』を書いてよりその気持ちが強くなったと言っています。
最初に読んだ『それから』は文字がすごく小さく感じた。言い回しも難しいし。これは最後まで読むのがしんどいなぁと思っていたのですが、他の本を百冊ほど読んで戻ってきた時、全然文字が小さくなかった。本に慣れたのでしょう。近代文学の言い回しや表現に慣れた。理解できることが嬉しい。「おお、読めるぞ!」と興奮しました。
(中略)わからないことはおもしろくないことではないんです。簡単なことを難しくしたり複雑にする必要はないですが、複雑なことを簡単にして理解するよりも複雑なことを複雑なまま理解できた時の方がよりおもしろいと僕は思っています。
本の残念なところは、お金と時間を掛けて読み切った結果「つまらんかった」となることで、それに怯えて確実に評価を受けたものだけを手に取ったりしがちなのですが、又吉さんはその経験を自分の未熟さに変換して、
だから全ての読書を楽しめるんだろうなと感心しました。
なんか社会人になって勉強量も増えて、本の量より質を求め出したあたりから1冊1冊への期待値が高くなってる感があってそれが嫌なんですが、
本書を読んで今一度、つべこべ考えずとりあえず雑に量を読むのもアリだなって思いました。
図書館で10冊くらい借りたろかな!今そんなモードです笑