『私の消滅』 / 中村文則
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(内容紹介)
このページをめくれば、 あなたはこれまでの人生の全てを失うかもしれない。
一行目に不気味な文章が書かれた、ある人物の手記。それを読む男を待ち受けるのは、狂気か救済か。『掏摸 スリ』『教団X』を越える衝撃。 中村文則が放つ、新たな最高傑作!
『去年の冬、きみと別れ - bookworm's digest』『悪と仮面のルール - bookworm's digest』『教団X - bookworm's digest』に次ぐ2016年4作目の中村作品。
リリーススピードが早い著者だからというのもありますが、おそらく今年一番読んでるのが中村さんぽいです。
それだけ色んな作品を読み尽くしたいと毎回思わせてくれるのですが、今回もまた素晴らしかった、、
ダヴィンチで又吉さん始めそうそうたるメンツが激プッシュしていた最新作です。
(余談ですが、ダヴィンチの中村さんと伊坂幸太郎さんの対談はサイコーです。また、役者の山崎樹範さんが中村さんのファンだということが何か嬉しかったです)
本作は内容紹介に書いてあるように、ある人物Aが手記を読むところから始まる。
手記内には書き手の過去を中心にしながらも、唐突に連続殺人者の分析などを挟んでいる。
目的の見えないその内容に、人物Aは意味を見出せない(と、同時に、私も意味を見出せない笑)。
この文章は一体何なのか?てゆうかまずこの設定は何なんだ?
と、人物A(と私)をしばらく置き去りにし続けたのち、中盤から別の人物が現れ、じわじわとこの物語の背景、手記の意味、そして人物相関が明らかになっていきます。
私があえて人物Aと書くのは意味があって、読んだ人なら分かると思うのですが、
中盤以降、真相が分かるにつれ、一体誰が誰なのか全く分からなくなるからです(あ、これ別にストーリーのネタバレにはなってないと思うので未読の人も大丈夫です)。
私が人物Aと思っていた人物、それは実は人物Bなんじゃないかと疑い出したのもわずか、また別の人物が現れ頭パンク状態。
つまり真相が分かるにつれ、真相が分からなくなるというパラドクスにまみれます(そしてそんな稀有な経験に俺は濡れる)。
こう書くと『去年の冬〜』からの流れである、中村文則トリックミステリー一辺倒の小説かと思われそうですが、
私が本作が『去年の冬〜』より優れていると思うのが、終盤にミステリーのみならず、人の悪、生死、に関する中村哲学が溢れている点。
私はやっぱり、他の小説家があんまり描かないこれらのテーマに真正面で向かっていく中村さんの作品が好きですし、唯一無二だよなぁと思ってしまうから、単なる伏線回収でスッキリミステリーで終わってないところがすごい好きでした。
あとがきに著者本人も書いていましたが、過去の作品からの流れで読んでいる者としては、この作品がこれまでの中村ワークスの集大成で進化系だって思えました。
けど思えば『迷宮 - bookworm's digest』読んだ時も『教団X』読んだ時もこんな風に思ったし、それだけ進化が止まらない、ポケモンのような小説家、、いやぁ、改めてすごいなぁと感じます。
ミステリー要素もあって、暗いですが万人にオススメ!