涼しくなってきて読書も進みますね。
『怪物に出会った日』 / 森合正範
ボクサー・井上尚弥とかつて闘って敗れたボクサーに密着したインタビューから起こされたノンフィクション。鈴木忠平さんが書いた『いまだ成らず』の羽生善治さん、『嫌われた監督』の落合博満さんに続き、この「周囲の人物からメインパーソンを炙り出す」フォーマットって流行ってるんかな?俺が知らんかっただけ?本作も井上尚弥というモンスターをよりモンスターたらしめる構成で楽しく読めました。
MMAはかれこれ20年くらい追ってる割にボクシングはほぼ通ってこず、本作で出てくる対戦相手もドネアくらいしか知らん私なのでいろいろと勉強になりました。ビックリしたのが、井上とスパーリングすると負傷する可能性が高く、相手が見つかりにくかったということ。MMAでもたまに所属ジムでの練習中の負傷で人気選手の試合が流れてネット上でバッシングを受けることはあるが、井上の場合出稽古的に他ジムを訪れて行うスパーなので、確かに所属選手が他団体の井上に破壊されることは避けたい。このエピソードあたりから既にモンスターっぷりが出ててアガった。
また、ボクシングを積極的に見ない理由の一つとして、作中で著者も書かれているが、トップ選手のパワー・スピードは素人には観ててもイマイチ伝わらないこと。MMAは立技でもキック、加えて投げや寝技という多様な動きがあり、そのダイナミックさは素人でも何となく分かるが、ただパンチングのみで戦う様は変な話採点競技感が強く感じる。ただ作中では「井上の試合は素人目にも凄さが分かる」と何度か書かれていたので、超遅ればせながら私もYouTubeで井上線を勉強し始めたところです。。
SNSで話題になった伊藤亜和さんのエッセイ。ジェーンスーさんや糸井重里さんといった著名人から注目された方。日本とセネガルのハーフという特徴的な出自や芯を食った表現、ユーモアセンスを端々から感じました。
加えてHIPHOP的な成り上がり感も。著者はハーフで貧困という境遇に屈することなく、個性的な祖父母と一つ屋根の下暮らしながら文章を書き続け、こうやって日の目を浴びることになる。この唯一無二の素直な文章が、今後注目が増す中でどう変化していくのかはとても楽しみです。
私は何かに対して「正しい」とか「正しくない」とか結論づけるのが得意ではない。必要以上にあらゆる状況を想像してしまうと、この世のことはあまりにも区別しがたい。それでも、今この瞬間になにをすべきか、なにを言うべきか自分で決めてきた。私は決して、汚れのない真っ白な壁ではない。なんども泥をかぶり落書きをされ、ときには自分で汚してしまったこともあった。それでも幾度となく白を塗り直して、美しく見られようと努力したことを、私自身、誇ってもいいのではないか。

