『いまだ成らず』 / 鈴木忠平
今年は個人的にノンフィクションの年。信頼する本ブロガーさんが上半期ベストに本書を上げててジャンピング購入。激オモロかっっっっったです!!
25歳で七冠、47歳で永世七冠、52歳で藤井聡太さんとの勝負に挑んだ羽生善治さんの評伝。面白いのが、エピソードの中心に羽生さんがいるという章がほぼないという構成であること。羽生さんの核に直接迫るわけではなく、周囲の人間の物語を追う過程で羽生さんを描くことで、羽生さんの輪郭を際立たせていく。羽生さんの言動について他者が考察していくため、多少神格化されてる点でノンフィクションを離れて行ってしまう感はあるが、個人的に羽生さんは藤井聡太や大谷翔平のごとく神のような存在で捉えてるので、そこは全然違和感なかった。
各章でフィーチャーされるのは、米長邦雄や谷川浩司、渡辺明といった、将棋知らない自分でも聞いたことがある名棋士の方々。いわばアベンジャーズ達が、それでもやはり同じ時代を生きる羽生善治を特別視していて、良くも悪くも人生を左右する程の影響を受けているという構図に圧倒される。勿論どんな業界でもこの構図ってあるやろけど、将棋は「自分のアタマで考える」というどんな人間にも備わってる基本機能を極めた先の頂点みたいな競技なので、他人事にも感じられない点がより面白い。
2010年代にAIが人間を超えてから、棋士たちの研究スタイルが180度変わったという話も、エンジニアの端くれとしてとても感化された。将棋教室に集まって頭を合わせてあーでもこーでもない議論を酌み交わす時代は淘汰され、グラボを積んだ高性能マシン目の前に一人研究部屋で籠る姿勢が主流になってる。数多の競技がデータ化されていってるのは知ってるが、ここまでデータに向き合う競技はそうないだろうし、けれどそんな中で50歳を超える羽生さんがそのスタイルに追従していくその柔軟性ももう見習うことばかり。将棋に精通してない方でも読める、ビジネス書にまんま置き換わってもおかしくない啓発本でもありました。