『存在のすべてを』 / 塩田武士
本の雑誌2023年の年間ベスト1位に選ばれた小説。『罪の声』の塩田武士さん、文章はおもろいイメージは十分あったが、今回も素晴らしかった、、
平成3年に起こったとされる「二児同時誘拐」という事件から始まるキッドナップもの。警察、記者、被疑者の視点から、30年分の時間を描いたフィクション小説。
とにかく、冒頭からつかみまでのスピードを競う「つかみ選手権」「初速王決定戦」なるものがもしあったのならダントツ1位受賞!冗談抜きで始まって2ページ目で目が離せなくなる。
そっから中盤までノンストップで駆け抜けたのち、中盤一旦落ち着くシーンがあるが、
何せ冒頭掴まれた衝撃が残ってるから、伏線仕込み時間である中盤のそこもストレスなく乗り越えられる。
また、ミステリーとしてしっかりとしたプロットを追いながら、それと並行して元新聞記者である著者の主張について、主人公・門田を通じて要所要所で差し込まれてるのも見事。「なぜ書くのか」という問いが終始突きつけられるが、
誹謗中傷で溢れるインターネットに紛れ込ませてはいけない、
「そっとしておいてやれよ」の一言では片付けられない、
被害者であれ加害者であれ、そこに生きた人間を炙り出すことの意義、
まさにこないだ読んだ『ヒロインズ』、あるいは去年読んだ『ある行旅死亡人の物語』にも似た主張を、小説という形態で謳っていた。
ていうかなんか言葉にしにくいが、エンタメおよび著者の主張として文字に起こす上で、塩田さんの作品は常に「これ!」という言葉が文章それぞれに当てはめられてる感じがする。決して難解ではない、けど安易でもなくて、しっかり読ませる言葉が選ばれてるというか。なんとなく、横山秀夫さん感もあり、他方で又吉さんのような純文学性もありで、本好きにもそうでない人にも間口が広がってる感じ。言いたくないけどこりゃ売れるわ、という作品。
結末もとても評価されてるが、個人的にはとにかく冒頭に注目という感じです、全人類オススメ!