- 作者: 滝口悠生
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/03/28
- メディア: 単行本
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★ × 89
内容(「BOOK」データベースより)
放蕩の末に最後の日々を過ごす老人と、その孫娘の静かな同居生活を描く「寝相」。失業し妻と別居中の男、更生した元女番長、いつからか地面を這うようになった小学生が織り成す異色の群像劇「わたしの小春日和」。奇妙な美しさを放つ庭の情景が、男女4人の視点から鮮明に浮かび上がる「楽器」(新潮新人賞受賞作)。目の前に広がる世界に、人の中を流れる物語に、ただ目を凝らし、耳を澄ますための、3つの物語。
以前荻上チキさんもラジオでオススメされていた、何かと話題の短編集です。
『寝相』『私の小春日和』『楽器』の3編。
『寝相』の主な登場人物は祖父、娘、孫から成る一家。
私は小説を読む際、物語が1人の目線なのか、神の視点のナレーションなのか、それとも複数人でころころ目線が変わるのか、要は「誰人称なのか」ということにいつも興味がありますが、本作はこれまで読んだどんな小説とも異なる形式で話が進んでいきました。
というのも、基本的には祖父の目線で語られていくのですが、気づけば孫視点になったり、それまでストーリーに重要でないと位置づけていた娘視点になったりして、しばらく頁をめくったのちに「あれっ?」と頁を戻す、という場面が度々ありました。
章や段落で視点を切り替える暗黙のルールがすっかり染みついているので、この違和感に慣れず、初めの方はなかなかにスローペースでした。
尚且つ『寝相』は、(※ これは少しネタバレになってしまいますが)祖父である竹春と孫であるなつめを中心にリアルの世界で展開されている物語のはずが、回想シーンでのみ登場していたはずの竹春の昔の女などが同じ時間軸上に出てきてバーチャル世界に移っているという、「何なのこれ?」という混乱も加わってきます。
と、いうことで1編目は非常に苦労して読み切ったので、2編目から若干億劫になった私ですが、、
不思議なことに2編目『わたしの小春日和』以降 ーー先ほど述べた「気づかぬうちに視点が変わってしまう技法」が使われているにも関わらずーー は、非常に読みやすく面白かったです。うーーん素晴らしい!!
この素晴らしさをなんとか可視化したいのですが‥、
それによって物語全体に脱力感を以て、「世界はこんな感じでうまく回ってるよ」と訴えかけられているようなそんな感覚。
例えば通勤電車の中でスマホ見たり音楽を聴いたりしている乗客を見て、それぞれの方の思いなど決して感情移入できないハズなのに、「まあ、みんないろいろだよね」と妙に納得して気持ちが軽くなる時があるんですが、そんな感じ(こんな風に感じるの俺だけ?)。
登場人物誰か一人にフォーカスして深いところから訴えかけるのではなく、俯瞰的な情景描写によって逆説的に説得力を持っているかのような‥うーん上手く言えんが、とにかくそんな感覚!
世間的に滝口さんの何がそんなにも評価されているのか知りませんが、初めて読んだ私の感想としては、小説というプロット重視のジャンルで、登場人物に感情移入させないまま感動を与えてくれるという初体験を味あわせてくれた作家。
受賞作も是非読んでみたい、スルメになりかねん興味深い方を知ることができて幸せです!皆さん是非!