『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(下)』 / 増田俊也
★ × 93
内容(「BOOK」データベースより) 牛島辰熊と袂を分かち、プロレス団体を立ち上げた木村政彦。ブラジルやハワイ、アメリカ本土での興行を経て帰国し、大相撲元関脇の力道山とタッグを組むようになる。そして「昭和の巌流島」と呼ばれた木村vs力道山の一戦。ゴング―。視聴率100%、全国民注視のなか、木村は一方的に潰され、血を流し、表舞台から姿を消す。木村はなぜ負けたのか。戦後スポーツ史最大の謎に迫る。
下巻。
とにかくすごいの一言。かなりの分量ですが、読むごとに世界に没頭できる、言葉は幼稚ですが「名作!!」と言えます。
理屈抜きで強いものを描く作品はいくつか読んだことがあって、漫画では『グラップラー刃牙』、小説では伊坂幸太郎さんの『グラスホッパー』、 中村文則さんの『掏摸(スリ)』、樋口さんの『さらば雑司ヶ谷』などが当るかと思います。
いずれもAという強大な存在を十分に示した後、Bという更なる強さを持った存在 が現れて…という、上には上がいることを巧みに描いている、素晴らしい作品です。
そういった世界を、仮想でなくノンフィクションで示したのが本作かなと思いま した。
エリオグレイシーや岩釣兼生といった伝説的柔道・柔術家がいて、彼らの天才っぷりを十分に提示した後、けれどやっぱり上には木村がいる、というブック(台本通り)なのですが、分かっていてもその度に「やっぱ木村~!」と言いたくなる。
作品のレビューと言っても、とにかく木村すげえの一言で締め括ってもいいんじゃないかってくらいの熱量だったのですが、面白いのは著者の18年間の中で木村と力道山への考え方が移り変わって、葛藤の過程がそのまま載っているところ、ここは月刊誌の連載ならではと思います。
筆をとった当初は木村へのリスペクトと、力道山への言っちゃえば揶揄の思いを持って書き始めている。
それは勿論力道山の卑劣さと、柔道経験ある身として木村という偉大な存在を知っていたから、ある程度バイアスかかった状態だったからかもしれません。
けれど取材を進めるにつれ、実はその構図が必ずしもそうでなかったことに気付く。
木村もまた悪童、酒と女に溺れ、体を作らないままリングに上がり、そして血祭りに上げられ転落していく。
元々多大なリスペクトを以て木村を描こうとしていた著者にとって、レールを外れ真実を描く転換をするのは大変な作業だったのかなと思います。
けれどその生々しさが伝わってくるからこそ、本書が真の姿を映したものであるという説得力があります。
♯ 本書の核である、力道山 vs 木村の映像は下に残っています。
ただ本書を読めば、この動画の真実がわかります、気になる人は是非!
んで個人的に最もアガッたのはエリオとの一線。
PRIDE世代としてはグレイシー狩りという言葉に敏感なので、戦後日本人が蔑まれていたという背景があって、そのなかで木村がエリオと交わる舞台設定がもう完璧すぎるのですが、
実はこれも動画がありました。
これを見て思わず声が出たのは私だけじゃないはず!
木村最強説は本書を読んで十二分に理解しましたが、実際の大外刈を見ると、想像を越えて本当に強かったことがわかります。
エリオが可哀想なくらいの実力差。
桜庭ホイスさえ大したことなかったように見えてしまうほどインパクトある動画です、是非観てください!
とりあえず格闘技チャンネル漁って余韻に浸ります…