- 作者: 増田俊也
- 出版社/メーカー: イースト・プレス
- 発売日: 2014/12/24
- メディア: 単行本
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★ × 87
内容(「BOOK」データベースより)
格闘技史に残る伝説の大会を軸に、北大柔道部の濃密な人間関係を詩情豊かに謳いあげた『VTJ前夜の中井祐樹』。天才柔道家・古賀稔彦を8年かけて背負い投げで屠った堀越英範の生き様を描いた『超二流と呼ばれた柔道家』。さらに、ヒクソン・グレイシー、東孝、猪熊功、木村政彦ら、生者と死者が交錯する不思議な一夜の幻想譚『死者たちとの夜』。巻末に北大柔道部対談を併録。人間の生きる意味を問い続ける作家、増田俊也の原点となる傑作ノンフィクション集。
『2015年ベスト - bookworm's digest』で2015年ベスト1に選んだ作品であり、
木村政彦というリアル範馬刃牙を描いた、ノンフィクションでありながらもエンタテイメント性に溢れる『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(上) - bookworm's digest』の著者である増田俊也さん。
本作は、その増田さんの著書です。
本屋好きの方ならこの、右目を大きく腫らした上裸の男性の装丁が平積みされているのを見たことがあるかもしれませんが、この男こそタイトルの中井祐樹、95年のVTJ(バーリトゥードジャパン。サカボキック、四ポジ膝ありの総合格闘技)で右目を失明し格闘技人生を終え、現在はWOWOWでUFC(世界最大の総合格闘技団体)の解説者としての姿を目にすることの多い方です。
故により文章に感情が乗っていて、何度かウルウルと来てしまいました。
増田さんの文章については後ほど述べるとして、まずは表題作のレビュー。
そこで繰り返し描かれているのが、総合格闘技を広めたい、進化させたいという中井の思い。
ちょっと脱線しますが、彼がVTJに出場した95年の日本と言えば総合格闘技など全く浸透していなかったそうで、観客の声も殴れ殺せの嵐、規模の大き目のストリートファイトのヤジ、という位置付けだったそうです。
だからほとんど認知されていないこの世界を、中井祐樹が選手生命を絶ってでも後世に知ってもらいたかったと思う気持ちなど、本を読むまで知る由もなく、ただ「解説の下手なおじさん」としか思っていませんでした、、、本当に申し訳ないです。
その栄光と影の裏に、間違いなく中井祐樹の活躍があったことを今更ながら知ることができて、読んで本当に良かったです。
あとは表題作に限らず、増田さんの文章について思ったことを少し。
『木村政彦〜』もそうでしたが、増田さんは本当に、「強い男」を描くのが本当に上手い。
例えて言うなら漫画『ハンターハンター』の幻影旅団編で、それまでゴンとキルアにとって最強の敵であったヒソカ、彼もまた幻影旅団という暗殺集団の一人に過ぎず、その中にはクロロという最強の団長がいて、けれどクロロと互角以上の競り合いを見せるゼノとシルバという暗殺家が出てきて‥という、
要するに「上には上がいる」という演出、これが本当に上手い。
しかも増田さんの場合言わずもがな登場人物全員ノンフィクションだからより驚き。
それが増田さんの一番の魅力だと個人的に思います。
格闘技好きは堪らん作品。格闘技好きじゃない方は‥面白いかどうかは保証できませんが笑