ノンフィクション読みたくて購入。小学館の2023年ノンフィクション大賞受賞作であり、力道山の妻・田中敬子さんを追ったノンフィクションものであると同時に、プロレスの歴史ものとしても読める素晴らしい作品!
幼少期から文武両道であり、狭き門であるキャビンアテンダントのキャリアをスタートした直後、当時既にスターだった力道山の目に留まり22歳で結婚。その僅か半年後に暴力団とのトラブルで刺された夫・力道山が亡くなり、多角経営でもあった彼が残した現在のレートで約30億円の負債を背負わされる。
という、小説よりも奇なり、な人生を20代前半で歩まれた未亡人の敬子さん。
ノンフィクション作品としては以前読んだ『統合失調症の一族』と同様、約60年前の事件を膨大な参考文献で炙り出すその根気にやっぱ痺れる。
けれど本作で何よりも面白かったのは、未亡人敬子さんが、力道山以上の肝の座り方してるとこ笑
俺個人としてはリアルタイムの力道山は知らんが、新日や全日のプロレスの歴史自体はゴン格やKAMINOGEで何となく知ってたし、同じくノンフィクションである『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』で力道山の破天荒さはイメージあった。本作でも、二人の結婚式に山口組組長や柳川組組長がフツーに列席してたり等、まあ時代もあるやろけど、力道山のヤベー奴感は十分に伝わってくる(列席者の肩書きに【右翼・裏社会】が書いてあるん初めて見た笑)。
ただ、その一方で妻敬子さんの、「よりヤベー奴」感!!
若くして夫の負債を全て背負わされ、暴力団・ヤクザやゴリゴリのレスラー等の人間関係を一挙に引き受けなければならない状況になってるにも関わらず、作中の至る所でいい意味でのサイコパスっぷりが発揮されてる。
特に(本人の話ぶりを知らんのであくまで文字から伝わる印象やけど)人の生き死にや億を超える会話のやりとりの中でも、「あら、いいですわよ」的な冷静さが見られるのがめっちゃくちゃ面白い。
それは御年80を超えるご本人が過去を振り返った時のセリフを引用する故にそうなってるからかもしれんけど、それにしても一大事な場面での意思決定の仕方がサッチャー的、「鉄の女」的精神のようで、結果論やけど力道山の妻はこの方しかいない、と思わされた。
ノンフィクションで著名人を追う上で、田中敬子さんを選出された時点で勝ち!といった作品。
#あと全く本筋ではないが、2000年と猪木とタッキーがプロレスしてたことが書かれており、数十年ぶりに思い出して爆笑した。先ほどRIZINで発表されたパッキャオvs鈴木千裕なんて可愛いもんだなと思わされた。