『それはただの偶然』 / 植本一子
植本一子さん最新作で、これまでの日記調からエッセイへとフォーマットを大きく変えた作品。
瞬間瞬間を切り取る日記スタイルな文章が好きだった身からすると、このシフトチェンジはどうなんだろう、、と要らん不安を抱いてましたが全くの杞憂でした。当たり前すぎて失礼ですが、文章うますぎる、、、!
”とある事件”が起こってから回復途上にある植本さん。故に少し落ち気味ではあるが、「落ち気味故に、最高傑作」が本作でも見事に実現されている。日記以上に一文一文・一語一語が選び抜かれている感じがして、走り抜けるように読む、というよりは噛み締めて読む、という作品でした。
心情描写が多めなのも良い。植本作品を過去から追ってる身からすると、母親への感情を描いた下記のような文章はやはり泣けた。
その風景を、母とおばあちゃんが朝からテキパキと動き回る姿を、毎日忘れないようにと手渡されるお弁当を、これでもかと固く結ばれたお弁当包みを開く指の力を、プラスチック製のお弁当箱の蓋を開けるときの嬉しさを、ぎちぎちに詰め込まれたおかずに私の好きなものが必ず入っていることを、添えられた小さなタッパーのフルーツを、それを愛と呼ばずして何と呼べばいいのだろう。
”とある事件”があり、まだ全快していないという状態でも尚このように深く自身に潜り込むような作品を出されるのはすごい。他者から見ると一見自傷行為に見えるそれが、植本さんにとっては生きる上で呼吸のように必要な作業であるということを今回も感じられました。
なんだかうまくいかない、うまくできない代わりに、私には「書く」ことがあった。書くことに逃げていたし、救われていた。だからあの頃はどんなことでも記録したくて仕方なかった。喜びも、苦しさも。書けばそこに置かれるから、安心して前に進むことができる。
だから娘たちの小さい頃は、今も私の本の中にあると思っている。あの可愛さには、本を開けばいつでも会える。書かれたことは、そこに生きている。