『さびしさについて』 / 植本一子, 滝口悠生
昨年自費出版限定で出た往復書簡『ひとりになること 花をおくるよ』に、もう2往復分とO JUNさんの解説が追加されて文庫化されたもの。追加分が書かれた時期が2023年後半ということで、植本さんがパートナーと関係を解消された時期とジャストでオーバーラップしており、『こころはひとりぼっち』でも描かれてた通り、植本さんからのボールはかなり辛い書簡となっている。
本作の特徴は、当たり前だが『こころは〜』では出てこなかった、植本さんの書簡に対する滝口さんの滝口さんなりのボール。
植本さんは実母に無視されていた過去があり、その経験がトラウマとなって今日まで自分を苦しめていると分析されている。
その反面教師として、植本さん自身は子どもに対してポジ・ネガ問わず可能な限り感情を言葉で正確りに伝えることを意識されてて、それは過去の著作でも度々出てくる、個人的に植本さんのとても好きな見習うべきところ。
ただ、それに対し滝口さんが、感情を言葉にすることと作家としての姿勢を見事に表現されてて感動した。
ご自身の経験から、心の内について娘さん達に言葉で伝えることを大切にしているという一子さんの姿勢には大いに考えるところがありました。僕にはそれがかなり難しいことだと思えるからです。そしてそう思う時、自分が日記ではなく、エッセイそしてフィクションという形式の散文を選んで書いているということ、そのことの後ろめたさのような感覚にも気づかされます。僕は進んで鈍く、遅くあろうとしているのかもしれません。(略)
語ることと語らないこと、守られていれば重く固いままの何十年の秘密も、語られてしまえば一瞬で明らかになり、そこには悩ましい懸念など何も存在しなかったことになったりもして、ただ長い時間だけが残ったりもする。僕は時間がかかること、長い時間によって変化することを1番大事にしているのだと思います。
時間がかかること、長い時間かけて変化することという思想は滝口さんの作品にもめちゃめちゃ現れてるし、こういった曖昧な感覚を書簡として、相手の意見に対してしっかりと言語化できるの凄すぎる。小説家・滝口悠生さんのご自身の考えが読めるという点で、改めて素晴らしい作品!