『いかれた慕情』 / 僕のマリ
『常識のない喫茶店』『まばゆい』でハマったものの、『書きたい生活』がそこまで刺さらずショックやったが、本作は素晴らしかった。
『常識〜』より更に前に出版された作品の再版らしいが、丁寧さと荒削りな部分が共存してるような、「書かざるを得ないから書いたんだ」と伝わるような熱を感じた。特に何回か描かれていた「吸収と放出」シリーズで、学生時代に著者がバンド活動していて、andymoriやチャットモンチーや毛皮のマリーズに傾倒している描写が出てくるけど、著者の作品から感じられる絶妙なはかなさとかセンスって、ああいった言葉のセンス抜群のロックバンドの影響を受けてるんやなと納得できた。
「田渕ひさ子って知ってる?」と持ちかけて、あの二分四十三秒からの絶叫みたいなソロを聴かせた。イヤホンを差し込んだ耳の、わずかに紅潮した顔を見て、わたしは友だちが少ない、と思った。
本作を出した26歳、そして5年の時が経ち書籍化が決定した30歳それぞれの立場で描かれたあとがきも良かった。文章はその時の自分のアーカイブそのものであるから、著者が過去の作品と現在の自分を答え合わせされてる感じが何とも感動的やった。
好きなものや夢中になれることをひとつずつ増やすことで、一日、また一日と生き長らえることができるんじゃないかと思う。
『逢沢りく』 / ほしよりこ
『きょうの猫村さん』で有名なほしよりこさん。本作は雑誌「CREA」で紹介されてて読んだ。1頁目開いた時点で「。。。これは最後まで読めるだろうか。。」と不安になるくらいには好きじゃない絵と字のタッチやったが、申し訳ございませんでした、素晴らしくよかった。
母との関係性がうまくいかず、ある時関西の親戚の家に預けられることとなった娘の物語。ゆるーーーーい絵のタッチからは想像もできない、小説1冊読んだかのようなボリューム感。変な喩えやけど、ゆるくてうま下手な表情などは『サブリナ』に似た「感情を読み取れないからこそ感情が伝わってくる」みたいな印象を受けた。特に下巻、こってこての関西弁の環境に徐々に体がアジャストしていく主人公の表現はめちゃめちゃくるものがあった(関西人の描写があまりにティピカルすぎるところはさておき)。終盤は細部まで描かれない部分が多く、結局娘は母の下に帰るのか、最後の涙はハッピーなのかバッドなのかなど、あえて読み取らせず余韻を残す作りも良い。絵のタッチに騙されることなかれ、おすすめしてくれたCREAさんありがとう!