- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2012/07/01
- メディア: Kindle版
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『ゴールデンスランバー』 / 伊坂幸太郎
★ × 91
(内容紹介)
衆人環視の中、首相が爆殺された。そして犯人は俺だと報道されている。なぜだ? 何が起こっているんだ? 俺はやっていない――。首相暗殺の濡れ衣をきせられ、巨大な陰謀に包囲された青年・青柳雅春。暴力も辞さぬ追手集団からの、孤独な必死の逃走。行く手に見え隠れする謎の人物達。運命の鍵を握る古い記憶の断片とビートルズのメロディ。スリル炸裂超弩級エンタテインメント巨編。
通勤電車が私と人の汗でモワモワし、紙の湿るこの季節、本を読んで我を忘れたいと手に取ったのが本書でした。
公開日に映画館に行き、完全に心持っていかれたのが印象的で、地上波での放送も通しで観ました。
ここまで好きになった映像を観たのちに原作に戻る、という経験はあまりないですが、
やっぱ伊坂さんすげえ、超面白かったです。ド級の雑念エンタテイメン!
主人公の青年青柳は、ある日学生時代からの友人森田に呼び出される。
ちょうどその日は首相が凱旋パレードを行う日だったが、その近くで森田は、これまで青柳が過ごしてきた何てことない日常は、全て何者かの「大きなちから」によって回されていたという事実を、車のなかで知らされる。
青柳は当然冗談と捉えるが、ただならぬ気配の森田が言う「早く逃げろ」の言葉に絵も言えぬ恐怖を感じ、車から出て走り出す。
その刹那、凱旋パレード中の首相が爆死し、そして森田の乗っていた車も爆発する…
そこからの展開はローラーコースターのよう、いつの間にか首相暗殺事件の犯人として指名手配されていた青柳は、逃げど隠れどショットガンを構えた警察(らしきもの)に追われ、心身疲弊しきっていく。
友人や先輩、そして別の連続殺人犯(映画では濱田岳演じるキル。マジサイコーでした!)の力を借りるも全て打ち砕かれてしまう。
あまりに救われない状態の中で、青柳はこの世界は目に見えるものが全て正しいワケではないということを思い知らされ、そこから自分が何をすべきか模索していきます。
『モダンタイムス』もそうでしたが、剽軽な文章のバックに、社会に対するアイロニーを主張しているようで、伊坂さんは何か本気で、小説で世界を変えたいとしているんだろうかとまで思わされました。
や、もしかして私が若かっただけで、『チルドレン』も『バイバイ、ブラックバード』もそうだったのかもしれない。
その真意は汲み取れませんでしたが、エンタテイメントとして完成している中で、私なんかにも何となく別の意志を感じさせてくれるなんて、伊坂さんオンリーだと思います。
だってこれ、ケネディ暗殺をモチーフにしているらしいじゃないですか。
それが現代版ミステリーとして最も評価されるに至るとは、、
すみませんすこし興奮しましたが、物語のレビューとして私が特に好きなシーンを。
一つは、これは映画の影響も無いとは言えませんが、青柳と、連続殺人犯キルがタッグを組むシーン全般。
この物語の時間軸は実は非常に短いのですが、その僅かな期間で追い詰められるところまで追い詰められた青柳さん、
初めはキルの貫禄を恐れていましたが、
中盤からキルと対等に喋っちゃってるっていう笑。
どんだけ追い詰められたんだよ青柳!って程貫禄滲み出てきちゃった終盤の青柳さんは物凄くかっこいいです。
もうひとつは最終章「事件から3ヶ月後」の怒濤の伏線回収劇。
かつての恋人である春子とのエレベーターのシーンもそうですが、父親に手紙を送るシーン(どうしても伊東四朗が目に浮かぶ…)、事件の間お世話になった稲井さんの家に挨拶に行くシーン、
ジェットコースターに乗ったあと喫茶店でコーヒー飲むかのような、惰力で進む余韻を残すこの章が、締め括りとしてめちゃくちゃ味出てます。
こういった演出とかも、単にミステリーで終わらせない伊坂さんの技だなぁと感心しました。
終始著者への尊敬畏怖しか書いていませんが、本当に面白い小説でした。
このヒートアイランドでも楽しめる、激オススメ!