植本一子さんの『台風一過』が届いたので読了。
前作『降伏の記録』でもう本は書かないと言っていたので出るとは思ってなかったから、出ると情報入った瞬間ジャンピングポチりした。旦那のECDが癌で亡くなってから初の作品なので、時間軸でどこからどこまでを書いたのか気になってたが、ECDの死直後から丸々1年分(2018年2月~2019年1月)のエッセイとなってる。
植本さんはもう、過去作品もそうやけど、今回も「書くことでどうにか平衡を保ってる」とでも感じるくらい、危うい心のバランスの上で生活を送ってる。それはECDの死に関わらずそうやし、今回も時間が経つに連れ「ECD」という文字の登場回数が減ってくけど、新しく仕事のことや彼氏のこと、娘たちのことでやっぱりバランスを崩したりして進んでく。
けど言っちゃ何やけど、ここまでグラグラだからこそ、エッセイというともすれば退屈な芸術でここまで惹き付ける魅力を放ってる。本作では特に、新しい彼氏であるミツくんと娘たちの関係性を描くシーンがヒリヒリして苦しかった。これも見る人が見れば、「旦那が亡くなって混乱してる娘が傍にいるというのに、妻であるアナタは何故すぐに新しい男と住んでいるのよ!」と皿を投げつけてくるやろう。レビューとかも荒れてるんやろうか。けどそこを隠さずにむしろ積極的に書いて発信することで自分を保ってる、植本さんのそういった危うさに惹かれてしまう。
終盤の、上の娘にミツの存在を話すシーンは、読んでて喉の奥がキュッとなる感じがした。
私の一番大事な人は、くらしとえんちゃん。その次にミツ。ミツはお母さんにとってとっても大事な人。だからミツのことは、家族って呼ぶのが一番近いかなって思ってる。
こういった哲学を子どもにも提示してく植本さんの在り方は見習いたいと思う。その後「お父さん、どうしてるかな?」と娘に問うた時、娘が
この1年大変だったけど、守ってくれてる気がする。
と応えたシーンでちょっと涙落ちそうになった。
あとちょっと話逸れるけど、植本さんは周囲の友人に娘を度々預けてて(これも名も無き野党がヤジ飛ばすやろうけど)、それは俺の奥さんがよく言う子育て村論に近しい感じがして考えさせられた。母乳神話をどうこう言う世代が減りつつあり、血のつながりを題材とした瀬尾まいこさんの作品が本屋大賞を取る時代なので、みんなで育て合いましょう、的なポスト家族思想を暗に謳ってる本作はそういった観点でも広がってほしいと思った。