西加奈子さん『夜が明ける』読了。
『ユリイカ』読んでいつの間にか移住されてたことを知り、あぁもう昔のようなゴリゴリの作品は出ないのかしら、、と勝手に憂いてたら、自ら描いた絵が装丁となった本作がいつの間にか出版されてた。『ふくわらい』『サラバ!』『i(アイ)』の系譜にある長編。
主人公とその友達・アキの2視点で交互に語られる独特な構成やけど、学生時代から30代になるまでの時間軸を追い、年を経るにつれ価値観が変わってくことを表現してるのは過去作品に共通してる。登場人物の苦境(今回は貧困や過重労働、うつなど)にフォーカスしつつ、最後には光を当てる作りも健在で、久々に西イズムを全身で体感した。
ただ本作はこれまでにも増して苦境部分が深く抉るような内容で、中盤少し疲れたのも事実。特に主人公が就職したテレビ局でADとして精神壊れるまで働くシーンは、同じように過重労働下に在る読者がいたら相当に心持ってかれてしまうと思う。著者に絶対の信頼置いてるから最後まで読めば得られる読後感も大きいと信じて読み進めたけど、そこでちょっと疲弊してしまった。
最後は全面的にハッピーエンドとはいかんかったけど、さすが西さん、ちゃんと心震える場面があって、特に主人公の後輩・森が家に来るシーンは喉の奥がキュッとなりながら読んだ。
先輩には、先輩のために、声を上げてほしいんです。苦しいときに、我慢する必要なんてないんです。我慢を続けたら、きっと、声を上げた人を恨むようになっちゃうと思う。自分はずっと我慢したのに、なんであいつだけって。でも、それって違いますよね。私は、私のために声を上げたんです。それは当然の権利だからなんです。
あと本作は実世界にもリンクしてて、高橋まつりさんの自殺や相模原障害施設殺傷事件にも触れてるあたり、社会的弱者に焦点を当てた作品を作る上での著者の本気を感じた。実際巻末に「すべての責任は著者にあります。」とまで書かれていて息を呑んだ。このトーンの西作品は今後刊行されるのか不明やけど、これからもこの本気度に定期的に触れたいと思う。