- 作者: 多和田葉子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/10/31
- メディア: 単行本
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『献灯使』 / 多和田葉子
★ × 94
内容(「BOOK」データベースより)
初の作家、多和田葉子さん。本の帯を見てからずっと気になってて、ようやく読めました。
いやぁすごかった‥‥マジですごい読書体験でした、読み終えてからしばらくボーゼン、圧倒的な世界観、心からオススメ!!
表題作含む短編集。
表題作は上記赤字で示す内容紹介の通り、今からおそらく百年後くらいの日本を描いた物語。
そこでの日本は鎖国状態で、外来語は一切禁止されている。
大災害により東京は汚染されデスシティと化し、人口は東京以西、或いは果物など食料資源を求め沖縄に集中している。
老人たちは100歳を越えても元気に過ごしている一方で、鎖国により制限された食糧や汚染された外界のせいか、子供たちの体は少し食べただけで異常をきたし、学校に行くほどの体力もない。
人付き合いもない、食事も旅も娯楽も死んだ、理想郷の対極デストピアが小説の舞台です。
本作をレビューする上で私は何より、あらすじよりもまず、前述した近未来日本の圧倒的世界観をプッシュしたい!!
映画や小説でこういった世界は度々描かれていますし設定としては今更目新しいものはないのですが、SFなのに感じるリアリティが本当に凄い。
基本的には100歳超の曾じいちゃんと虚弱な曾孫の日常が淡々と描かれているのですが、その「淡々さ」を受け入れられない程に恐怖が常にある。
その恐怖ってのは恐らく、作中の世界が全くもってあり得そうな設定であるからで、それを植え付けるのは勿論著者の文章能力の高さなのですが、読んでいて「‥日本やばい、出たい」なんていうクソみたいな感想を持ってしまいました笑
で、肝心のあらすじですが、虚弱体質の曽孫は数年後には車椅子生活になるものの、その聡明さから国家機密のプロジェクトの一員に選ばれ、海外へ渡航し、他国がデストピアと化した日本同様のシチュエーションなのか、他国の調査により日本の子供が活力を取り戻すヒントが得られるのかを調査することとなる(これを「献灯使」と呼んでいます)。
ただし中編の小説として展開はここで終わり、献灯使としての描写はないまま締められるという、これまたなんとも形容しがたい悲しみが残存したまま取り残された形となりました。
一体なんなんだこの世界観は‥!!とポカン顏の私でしたが、気を取り直して次の短編『韋駄天どこまでも』を読みだしたのですが‥、
こ、これまたなんじゃこりゃあ!例えば以下作中の抜粋。
全然エキセントリックなところのない女性だと思っていたら、全然の然に火がついて燃え出し、舌が炎になった。
太字の箇所で完全に漢字遊びを混ぜつつ、一応ストーリー性も孕みながら数十ページで終わる。
以降の3編も同様、言葉遊びそれ自体が切れ味鋭く、フレーズを追っていくだけでも十分楽しめます。
そして再び、あらすじの世界観について。
本作は複数の短編を通じて、時系列でジワジワと「人間界の終わり」を描いていき、最終話『動物たちのバベル』では大洪水により人間が消滅したあとに、イヌやネコやリスなど動物が新たな世界を為しています。
これまた今更目新しいものはない展開ですが、『献灯使』のレビューでも述べたとおり、最終話に至るまでに、既に言葉と物語の世界観に完全に引き込まれているので、イヌやネコが言語や鬱病の話をしているという陳腐な展開も全く笑えないというか、デストピアに置いていかれて狂った現実だけが残された恐怖心みたいなものすら感じました。
そういった主張はたくさんの表現者の方が、震災以後にいろんな方法でされていますが、本作は「災害により人間界は破滅する」という、設定としては直球ストレート。
けれど圧倒的な世界観とリアリティ、そして言葉遊びのエンタテイメント性という魅力も併せた、本当に素晴らしい小説でした。
ありきたりかもしれませんが本心からそう思います、皆様是非どうぞ!