『復讐』 / タナダユキ
★ × 85
内容(「BOOK」データベースより)
北九州の小さな町に赴任した若き中学校教師・舞子は、始業式の朝、暗い目の少年に出会う。教室で明るく優等生として振舞う彼には、ある忌まわしい記憶があった。その過去に呼応するように、置いて来たはずの秘密が少しずつあらわになっていく。人間の闇をえぐりだす緊迫サスペンス長編。
『百万円と苦虫女 - bookworm's digest』の監督、タナダユキさんの小説です。以前より友人から猛プッシュを受けていましたがようやく読了。
折しも先日Huluで『ソロモンの偽証』を観たところだったので、読み始めてすぐ「また新任教師 × 未成年の殺人の設定かぁ、、」と思ってしまいましたが、やはり映像で観るのと文字で読むのではそれぞれの緊迫感があって良かったです。
過去に闇を抱える新任教師「中井」と、赴任先のクラスで同じく闇を抱えたある生徒「橋本」にまつわる小説。
設定の対比として、中井は兄が殺人者という「加害者側の家族」、橋本は弟が殺された「被害者側の家族」となっています。
ただしこれらは全く別の独立した事件であり、立場は違えど、いずれの家族も主にマスメディアに祀り上げられ傷だらけとなり、親や兄弟の自殺など不幸が重なっていきます。
物語の序盤はかなりミステリー調(靴の取り違えにより被害者を間違えるなど)であり、陰鬱とした空気の演出は映画では出来ないものがあってページを捲る手が止まりませんでした。
タイトルは、橋本が傷ついた家族の再生させるために加害者に復讐する、という意味。
この手の小説でよくあるように、周囲には優等生で愛想を振りむく橋本ですが、内面ではドロドロと復讐心を抱いているということが、中井と橋本の二人称視点で交互に心情を描写することで巧みに描かれているため、私の感情としては「一体どうやって、優等生の橋本は周囲を欺きながら復讐を犯すのだろうか」という視点になってしまっていました。
ただし中盤以降は、物語の核はミステリーではなく、この復讐劇に至るまでの、中井と橋本という別の立場の人間が遺族として殺人をどう捉えるかというところに焦点があたっていきます。
よって情景よりも心情描写に傾倒していくのですが、
このあたり(大変失礼ですが)一般的な人間ドラマでよく見られるような心情描写としか感じられず、読むペースが少し鈍化しました。
(雨の中での弟との対面など、ありきたりなシーンもあったり。。)
あくまで個人の意見ですが、序盤の勢いそのまま、グロテスクな展開を持続させたほうが「映画ではできないこと」になったのでは?と思いました。
本職映画監督ということで、どうしても映像化を前提に書いてしまうのかなぁ、という気持ちが拭えず。。
前半はホントに素晴らしいですが、ゆえに終わり方の綺麗さが目立ってしまって少し残念でした。