『ビニール傘』 / 岸政彦
★ × 93
内容(「BOOK」データベースより)
共鳴する街の声―。絶望と向き合い、それでも生きようとする人に静かに寄り添う、二つの物語。第156回芥川賞候補作。気鋭の社会学者による、初の小説集。
『断片的なものの社会学 - bookworm's digest』の著者、社会学者の岸政彦さん。
芥川候補に選ばれたのを知って、へー小説も書いていたのかと思いきや本作が初だそう。
表題作と『背中の月』の短編2作収録ですが、、、いやはや素晴らしく良かったです。ジャケ合わせてマスト買い!
特に表題作が素晴らしかった。
とある街のとある男女複数人の日常を描いたもの。
男たちは現場の日雇いだったりタクシーの運転手だったり、
女はなんとなく大阪に出てきた水商売だったり美容師だったり。
冴えない日常に冴えない人柄で共感もクソもない、感情移入もし難い、第三者が第三者を語るような感じで終わりましたが、
本作の肝はその「匿名感」にあると個人的に思いました。
滝口悠生さんの『死んでいない者 - bookworm's digest』も同じでしたが、人称は同一人物かと思いきや知らぬ間に別の人物に変わっていて、それが感情移入しにくい所以。
語り手は勿論主人公で心情描写もあるんだけど、あくまで第三者から(この場合社会学者の著者が)街に生きる1人の人間を描いた、という構図になっているような気がして、何とも奇妙でした。
けど心地よい。
決してハッピーな展開ではないので、ずーっとキリキリと胸が痛むようで、小説でなくルポルタージュを読まされているような感覚でしたが、
日々辛いことがありながらも何とか生きてる人々って、ドラスティックな感情表現じゃなく本作くらい意外と低体温なんだよなぁと考えさせられました。
それが小説で成り立っているのがすごいと思います。
あと個人的な嬉しみですが、物語の舞台となっているのが私の職場の半径500m以内のところで、要所要所で馴染みある地名や写真が挿し込まれているのが萌えました。
正に工業地区ってところに会社はあるので、言葉は悪いですが若干空気の煤けた、鼻をつくような臭いを小説からも感じました笑
2作目の『背中の月』は恋人を病気で亡くした男性が静かに崩壊していく物語で、こちらの方がどちらかと言えば小説的。
家の鍵を外から掛けて、家の中に投げ込んで「やっと2人になれたね」と言うシーンはなんとも切なく情景が浮かびましたが、
個人的にはやっぱ表題作が素晴らしいと思いました(2回目)。
社会学者の著者にしか書けない唯一無二の小説と思います、ありきたりな文章に飽きた人は是非!!