『働けECD わたしの育児混沌記』 / 植本一子
★ × 90
内容(「BOOK」データベースより)
妻(27歳写真家)と夫(51歳ラッパーECD)と娘二人(2歳と0歳)のドタバタ生活をつづった人気ブログ「働けECD」が待望の単行本化。家事に追われ、子供に泣かれ、早朝ラップで起こされて。さらに襲いかかける震災、原発の恐怖に怯えながら、楽しくも懸命に生きる石田家の毎日を、母、そして妻の視点から瑞々しく切り取る心あたたまる子育て日記です。
『かなわない - bookworm's digest』に引き続き植本さん、とは言えこちらが前作なので時系列は逆ですが、同じく育児エッセイ。
本作は二人目の娘であるえんちゃんが生まれた2010年から、東日本大震災が襲う2011年春ごろまで、約1年の日常が描かれています。
特徴的なのは何と言っても、ECD(石田さん。著者の旦那)と著者の出費が1円単位で毎日書かれていること、そして預金残高が赤裸々に書かれていること。(!!)
『かなわない』のレビューでも書いたのですが、著者はとにかく、他者への発信目的が強いブログ媒体では見たことない程、己の全てを余すことなく曝け出しています。
本作では育児への怒りや恐れに加えて貯金と出費の公開、、これが周囲の人に知れ渡ると考えると外出歩けない、、
と思うほどおおっ広げ。そして、だからこそただのエッセイじゃ終わらない魅力がありました。
著者は基本的に軽い躁鬱状態にあって、怒りが頂点に達し手を出したあとで、自己嫌悪で泣き叫ぶといった場面がいくつか出てきます。
それは本人にしか分からない苦しみだからどうこうレビューできないですが、私が感じたのは怒りや悲しみが人よりも振り切れている分、家族への信頼や愛も同じように大きな振り幅を持っているということ、だからすごく人間味があるということです。
終盤、大震災により一時故郷へ避難していた著者が東京に戻る際、都内に留まっていたECDに状況を問うシーン。
これからどうなっていくか、私たちがどうするのか、まだ分からない。でも今は東京に居る。どんな偉い人の「大丈夫」より、優しい友人の「大丈夫じゃない」より、石田さんの「わからない」が一番今は安心できる。
不平不満はありつつも、根底では著者がECDに信頼を置いていて、どんな自分でもECDがいるから私たちは大丈夫だって思えていることが伝わってきてすごか感動しました。
あと最後のページ、待機児童だった娘が急遽保育園の入園することとなり、これまで通り過ごすことがあと1週間しかできないと分かって大泣きするシーン。ここも泣きそうになりました。
上の方で書いた通り著者の文章は己を曝け出しっぱなし、
だから家族への思いも本音の本音の本音で、怒りも愛も全部が文章そのものなので、こういった想いの描写はそこら辺のブログの比にならん程重い。
その辺がホント素晴らしい、唯一無二の執筆家と思います。
さあ、最も重たいであろう最新作も読まねば、、!!