『風よ あらしよ』 / 村山由佳
村山由佳さんが描く、伊藤野枝の生涯をとことこん追った小説。めちゃめちゃ調べられたことが伝わってくる密度。吉高由里子主演で映画公開されたこのタイミングで改めて気になってたが、新しく塩屋にできた知り合いの本屋さんに古本で置かれており、600頁超えで一瞬たじろいだものの即買い。小説でもやっぱめっちゃおもしれ〜でした!
冒頭からしばらくは、伊藤野枝視点で時間が進み、その中で出会う元夫・辻潤や平塚らいてうなどの視点にも移りつつも、基本的には「伊藤野枝」のパーソナルな面にフォーカスが当たった作り。
いつ死んだっていい、だからこそ、燃えるように激しく生きたい。
社会の底辺で虐げられていながら、その理不尽にすら気づかない人々を救いたいという思いは掛け値なしに本心から湧き出るものだが、最初から相手を弱者と決めつけ、啓蒙して解放してあげようなどという考えがどれほど傲慢で鼻持ちならないことだったか、野枝は今更ながらに思い知らされていた。
このあたり、栗原康さんの著者で伊藤野枝の力強さと弱さについてはある程度前知識あったため、評伝としても小説としても改めて振り返ることができて良かった。
本作の特徴は後半、もう一人の主要人物である2番目の夫・大杉栄が出てきてからは、野枝個人の視点から、国家やアナキズムなどよりマクロに捉えた視点に物語が拡張されるとこ。とにかく作中の大杉栄が魅力的であり、国内に留まらず世界観点で労働問題を捉える広視野を持ってる一方、野江との間に出来た魔子の世話に無理なくコミットしまくってるといった面も持ち合わせており、この時代においては異端である伊藤野枝のパートナーとしてまた、異端である大杉栄彼しかいなかったということが小説でよく分かった。
最後、子ども含め栄・野江が殺害される甘粕事件については、史実として分かってはいたものの、今回小説という形態で感情移入した上での結末だったので、正直残酷味が一気に増して頁を捲る手が一瞬止まった。こんなふうに国や歴史に消された幸徳秋水のような人物は多く存在して、歴史書を紐解くと事実/知識としてインプットはできるのだが、そこに感情を乗せて伝えてくれるのが評伝小説の何よりの魅力。普段あまり読まないジャンルであることも相まって、改めて小説の素晴らしさにビガップしたし、こないだ読んだ『ヒロインズ』の主張と、根本の部分では何も変わってないということも改めて痛感できた。
映画観るかどうかは迷い中、、サブスク解禁を一旦待とうかという感じです。