なにかと話題の『彼女は頭が悪いから』読了。終始胸糞悪かったが、それだけの気持ちを起こす筆致やったってことで感動した。
『昭和の犬』で直木賞取った姫野カオルコさん、個人的には初やったけど、どうやら作品によって様々な書き分けが出来る方らしいので、この世界観が全てでないらしい(もしこの世界観で直木賞取ってたらそれはそれですごい笑)。本作は2016年に起こった東大生強制わいせつ事件の元にしたフィクションらしいが、読後事件について調べてみると、事件そのものはほぼ事実に沿っていたので、被害者が強姦されるあの最も胸糞悪いシーンはノンフィクションやったんかと思い知らされて益々嫌な気分になった。
主人公は被害者女性と加害者男性の1人で、彼らが中学生の頃から始まるため数年に渡って彼らの性格が描写される構成となってるため、事件に至るまでに彼ら(正確には被害者女性)にガッツリ感情移入してる状態になってる。それに加えて本作のエグいのは、時系列でエピソードを追ってる中で、要所要所で事件がいずれ起こることを匂わせてるとこ。つまり「こんな純朴な女性も、数年後にこの男に犯されるんです」てことを度々言ってきてるようなもんで、なんて性格の悪い著者なんやと嫌いになりそうになった笑
一切救いのない小説やけど、それ故同時に「終わった後何を考えるか」が大事になる作品でもあると思う。んで俺の場合は、事件が起こった後のSNSで、大衆の攻撃の矛先が加害者の東大集団でなく、被害者の女性に向けられたシーンの歪さが一番響いた。「相手が東大やからついてったんやろ」「深夜に男集団の家に行く女性の方が悪い」という言い方は、さっき言った通り小説の中で被害者の生い立ちを知った上では出来るハズないけど、双方に関する知識が全くない状態でこういった類のニュースを目にした時は果たして今回と同じだろうかって自分に問いかけたら、ちょっとどもる自分がいた。。
実際に著者が東大で講演を行った記事も読んだが、東大側からちょっとねじ曲がった批評が飛んできてて、それはそれで考えさせられた。こうやって湖に一石を投じるような小説はいつだって素晴らしいし、別の顔を持った著者の他作品も見てみたい。ひさびさに読んだ日本の小説がこれでよかった。