『palmstories あなた』
『じゃむパンの日』の出版社、palmstoriesから出た複数人の著者から成る短編エッセイ。「あなたへ」送る文、というテーマで各編が描かれているが、「あなた」は特定の誰かというわけではなく、モノや場所など著者によって様々な対象に隠喩されてる。例えは変だが、中学校の頃「擬人法を使って詩を作る」宿題を思い出した(今思えば俺はあの宿題が好き&得意やった)。本のサイズも7inchスマホ程度で、「"てのひら"の小説たち」というコンセプトを徹底しており、小さな出版社にしか成し得ない丁寧さと愛情を感じる良書。
1編目、津村記久子さんがとにかく素晴らしかった。。津村さんが描く「あなた」は、おそらくだがイ⚪︎ンなど大型ショッピングモールの6Fに入っている何の変哲もない生活雑貨店。仕事やプライベートで任意のモノが欲しくなったとき、痒い所に手が届くその平均点の店に何度か救われたという話を描いている。
こういった経験は、マジで誰にだってある。けれどそれは人に語るでもない消え物の経験であって、文学として大多数にシェアされるものでは本来ないが、津村さんはそのエピソードを
あなたは、直射日光からも私を救ってくれた。
といった、端的でユーモア満載の語り口で見事にそれを成し得ている。
小説であれエッセイであれ「メインイベントではない何か」に焦点を当ててこそ人生、といったメッセージを伝えてくれる津村さんを久々に感じて想像以上に喰らいました。
気安い場所にいて、どこにでもあるような売り場なのに、困っている時にはだいたい手を差し伸べてくれる。自分は新しい職場でそういう人間になれたらいいと思った。
あと、隣人のおじさんについて描いた大崎清夏さんのフィクションともノンフィクションともつかぬ文章も魅力的やった。コンセプトである「手のひらサイズ感」をそのまま体現したような、じわっとくる熱量。大崎さん自身は恥ずかしながら初めて知りましたが詩人だそうで、遅ればせながら作品にも当たってみます。