素晴らしかった。滝口悠生さん新作『ラーメンカレー』読了。
前半は小説、後半は手記の構成。手記は、窓目くんという滝口さんの実際の友だちが綴ったものを作品用に加筆修正したもの。という、構成からしていい意味で「大人の本気の悪ふざけ」という感じ。後半の窓目くんに至っては『長い一日』で既に作中に出てきてるし、こないだ出た文學界では滝口さんと対談までしてる。そんな、実在する人物のほぼ実話が出てくる後半は、なんか笑いや涙と同時にいろいろ考えさせられた。
手記、という形態を取ってる以上、初めは窓目くんの目線で読めばいいんだな、という気持ちで読み進めるも、途中から著者・滝口さんの言葉で多視点から語られる窓目くんも出てきて、誰の、何の物語か分からなくなる、その主体性の無さに最初戸惑う(それは前半の小説も同じ)。ただそもそも、本人だろうが異なる人物だろうが、それが書かれるのは物事が終わってから「振り返る」形となる。つまり主観とは言っても、本当に現在進行形で手記が書かれることは無い、どこか客観が入ってしまうということが説明されててかなり食らった。今まで日記やエッセイを読んでる時、著者ご本人がまさにその体験をしてると同時に文字に起こされてるような錯覚になってたけど、文章は必ず後から描かれており、出版に至るまで何度も校正されている。そう考えると文章を読んだだけでその人のことが分かったなんて錯覚に過ぎないんやなとつくづく感じた。
窓目くんはシルヴィとメッセージをやりとりしているときも、日本に来たシルヴィと一緒に過ごすときも、生きているのがすばらしすぎる、って思うだろう。