『ぼくに流れる氷』 / マイク・ライトウッド
サウザンブックス社。人生で初めて翻訳本にクラファンして、見事目標額達成したので国内で出版され、今月ようやく届いた。去年読んだ『ぼくを燃やす炎』の姉妹作。合わせて1,000ページ以上!!
うぉおおおおおおおーーーめーっちゃ良かった!期待以上すぐる!『ぼくを燃やす炎』で完結してたと思ったら、まさかの本作でピースが完全一致する割符になってたとは、、!
前作で主人公だったオスカルと対極の立ち位置で登場していたクラスメイト・ダリオの話。オスカルはゲイというセクシャルマイノリティだったが、実はダリオもまた然り。
前作でアウティングし、オスカルをその後の地獄に追い詰めた加害者側のダリオが、なぜ親友以上の関係だったはずのオスカルにそんな酷い仕打ちをしたか、その詳細がダリオ視点で描かれているのが本作。
(以下、ネタバレ満載!)
そもそも性自認に肯定的だったオスカルと比べ、自身がゲイであることに否定的だったダリオ。オスカルとの身体的接触は好きだったものの、オスカルからの好きという告白がどうしても認められず、自身の感情とは真逆の行動に出てしまい、それがさらにクラスのカルロスにばれ、結局オスカルに対するいじめや暴行に火をつけてしまう。
けれどダリオが自身の性を認められなかった理由は、唯一の家族である祖母から嫌われたくない・捨てられたくないという気持ちだったことが中盤に判明する。
スペインの田舎村という、風土や宗教的にヘテロセクシュアル以外認められていない環境で、バレると祖母にも見限られるのではという恐怖。
つまり前作で見ていた世界は片面だけで、両側から見て初めて世界を捉えることができる構造になってる。『ぼくを燃やす〜』を読んだ限りだと分断されていた世界は実は分断などされておらず、それぞれがセクシャルマイノリティという同じ立場にもかかわらず、敵を作ることでしか自分を守ることができなかった、ということが本作でわかる。
いやーそんな作りになっていたとは!!!前作の時点で教えといてくれよ!!!(すみません既に告知されていたんだったらすみませんすみません。。)
関係性が壊れてからの展開は、王道っちゃ王道。いじめていたカルロスをダリオが止め、周りの信頼できる親友や家族から信頼できる言葉をもらい、最終的にカルロス自身が行動して道を開いていき、最後全員でプライドパレードに参加するという、美しすぎると言えばその通り。シスジェンダーの友人は実は数えるほどしか出てこず、結局は互いの苦しみをわかり合っているゲイの人同士で乗り越えていくというストーリーも、邪推かもやけど「芯からは分かり合えない」シス/ヘテロ間の溝みたいなものが若干皮肉っぽく描かれている気もする。
ただ、分かり合えずとも苦しまない世界を作ってくのはできるし、「自身で切り開いていく」という、セクシャリティ以外の場面でも活用できるキョーレツなメッセージ性を本作(もちろん前作セットで)は持っている。1,000ページもいるんか?と問われると別に要らんかった気もするけど、(何度も言うけど)前作で完結してたと思ってた身としては、1,000ページかけて「この世界は素晴らしい」ことを重い弾として見事に打ち込まれたので、やぱこんくらいのボリュームは必要だったんじゃないかと納得。手に入りにくいし高コストだしハイボリュームだしで臆されるかも知れませぬが、損は絶対ナスビなので是非皆様手に取ってください!!