初の小沼理さん。コロナ禍の2020年、21年、22年と、3年分、夏の期間だけ書かれた日記を纏めたもの。出てくるイベントごとが、新しい記憶なものばかりという点で読みやすく、且つコロナ対策とか、東京オリンピック開催までのゴタゴタとか、誰しもが振り回されたことが題材に出てくるんで、追体験しやすい。
感銘を受けたのは日頃報道されるトピックに対する著者のジェンダー観。
著者はゲイを公言している方で、同性の恋人と同棲している様子が日記中にも出てきており、数々の報道に怒ったり悲しんだりしている様子が書かれてるけど、その考察が自分ならこういうところまで考えは至らんなぁー、と思うことばかり。
例えば杉田議員が「LGBTには生産性が無い」的な発言して燃えたニュース、SNS上では「生産性が高いLGBTだってたくさんいるぞ」というリプライで溢れて、俺もそれ見てそうだそうだ、と思ってしまってたが、
小沼さん的には、こうやって相手の土壌に立って反論してしまうと、生産性が低いとみなされたLGBTの人が、そこからこぼれてしまうってことを書いていて、そうじゃなくて、そもそも生産性というめちゃ曖昧な指標で判断しようとしている姿勢や態度、そのものを問うていかないといけないなってことを言っている。
こういう、そもそもの物事の本質、を捉える力って個人的にすごく弱くて、森を見ず木ばっかり見て生きてきた人生なんで、その姿勢にめちゃ感銘受受けた。
あと印象的やったのが、家で料理している描写がめちゃくちゃ出てくるとこ。それが、何て言うか、当たり前すぎて言葉にするのもはばかれるが、こうやって性的マイノリティの人だって、生きているていうメッセージに感じた。
フェミニズムやジェンダーの本って、当然ながら伝えたいメッセージが明確にあるので、著者自身の像っていうのが、そのメッセージに比べるとちょっと薄くなってしまう感じがするけど、この本にはそれが無い。トピックも「日常」も見事なバランスで成り立ってた。