暑さにやられて読書が思うように進まず、、暇あれば学習漫画シリーズを読んでる上の子を見習いたい。
『ある大学教員の日常と非日常』 / 横道誠
発達障害を持つ大学教員の著者が、研究のためコロナ禍にウィーンに行く話。日記ともエッセイとも異なる掴みどころのない文章やったけど、なんか絶妙に楽しめた。頑張って言語化してみる。
心に残ったのは「障がい者モード」というワード。これは著者が自身の発達障害から考えついたモード。世の中は基本的にマジョリティである健常者のために設計されており、マジョリティ界で言うところの「当たり前」「日常」が著者にとっては「非常に高い障壁」「非日常」であると。なので著者は自身を「障がい者モード」と定義し、常に被災している状態と仮定し、故に自分が思う以上に過度に確実に計画を立てて遂行していくのだ、という考え。
これは他者を慮ることが良しとされる昨今の考え(※皮肉たっぷり)に照らし合わせると、「そんな風に設計されてる世の中が悪い!もっと多様性の理解を深めるべき!」みたいな言い方になりそうやけど、
個人的には、本書で著者が言いたいのはそんな野暮なことでは無いように感じた。むしろ、常に被災していると意識するからこそ、「健常者モード」のマジョリティが見逃しがちな側面に気づける、そんなポジティブなメッセージを想起させられた。
例えば著者は小説や芸術作品に造詣が深く、本書でも度々引用されている。その引用は、大概著者の心がプラス或いはマイナス方向に比較的大きく動く時などに為されているように見受けられたが、「健常者モード」の場合、そもそもそんな頻繁にプラス或いはマイナスに感情が動かない故に、こんなにも小説や芸術が引用されることもないだろう。それって正論で言ってしまえば「心が落ち着いてる方がいいよね」なんやけど、卑下しつつどこかユーモア溢れる著者の言葉の前だと「心がこんなにバタバタしてるけど、世の中には素敵なことがたくさんあるなぁ」みたいに捉えられる。これはすごいことに思った。
ユーモアの観点でも、言いたいことはいっぱいある。2章「出国できませんでした」で、パスポートが無効になっていて、当日出国できないことがわかったときの著者の心の動き、
これは事実だけを追うとホンマ悲しい。けれど、面白い笑。そして文章がとにかく良い、、、。
僕は、翌日、近所のスーパーマーケットに行き、甘栗を買ってきた。とてもおいしい栗だ、この栗を日本で食べられて良かったと考えて、自分に落胆しつつも、胸が熱くなった。
出国できなかった一連のエピソードをこんなふうに閉じれる、その価値観に痺れた。
発達障害ならではの真面目な分析もめちゃめちゃ面白い。ウィーンに来てからの自身の冷蔵庫の中身について、
初めはいろんな色の缶のビールを買って並べていたのだけれど、次第に青系統のビールばかりになっていった。いろんな色のビールを買いたいのは、飽きっぽい注意欠如、多動性の特性だろう。それが青ばかりになったのは、自閉症スペクトラム症のこだわりの特性が、注意欠如、多動性の特性をしのいでいったということだろう。
海外留学と発達障害と冷蔵庫の中身を元にして、こんなふうに自身を分析できるの、マジで面白い。
スカラーの大きさは人それぞれあれど、著者のような心の動きはどんな人にとってもあると思う。それはポジティブだけでなくもちろんネガテイブな側面においても。
本書は、そんな心の動きに、発達障害というバックボーン故に他人より遥かに頻繁に向き合わざるを得なかった著者からの、「こんな人間だっているんだぜ」というキョーレツなメッセージに感じた。表紙の不気味さに臆せず、ぜひ皆様紙の本でご購入ください!
僕は今では自分を障害者だと認識できているから、勘違いして健常者モードで行動するということがない。障害者モードでゆっくりと考え、慎重に体を動かし、自分をたっぷりとケアしてストレスを積極的に減らすことができる。